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217. 能力の発達に関する「5つの変容原則」

June 27, 2016

元ハーバード大学教育大学院教授カート・フィッシャーは、 “A Theory of Cognitive Development: The Control and Construction of Hierarchies of Skills (1980)”の論文の中で、能力の発達に関する5つの変容原則を紹介している。私自身、この論文をこれまで何度も読んできたが、これらの5つの変容原則についてそれほど注意を払ってこなかったことに気づかされた。

 

改めてこれらの変容原則を細かく見てみると、能力の発達プロセスを理解する際に自分にとって盲点となっていた箇所に気づく。そもそも、これらの5つの変容原則は、ある能力が次のレベルにどのように到達するかを説明するものである。

 

それゆえに、これらの原則は、能力の発達過程を予想する核となるメカニズムであると言える。能力の発達過程を説明する原則は、これまで様々な研究者によってその必要性が認識されていた。さらに、これらの原則は、学習や問題解決における行動変化を説明する際にも活用されてきたという背景がある。

 

興味深いことに、すでに幾つかの実証研究によってこれらの変容原則が検証されており、変容原則に基づいた発達予測が行なわれている。今後、発達予測についても言及していきたいと思っているが、まずは5つの原則を押さえることが先決である。

 

結論から先に述べると、5つの原則はそれぞれ(1)統合化(intercoordination)、(2)複合化(compounding)、(3)焦点化(focusing)、(4)代用化(置換化:substitution)、(5)差異化(differentiation)と呼ばれる。統合化(intercoordination)と複合化(compounding)はともに、既存の能力が組み合わさり、新しい能力レベルがどのように生み出されるかを説明する。

 

より具体的には、「統合化(intercoordination)」は既存のレベルから新たなレベルへの発達の際(マクロな発達)に適用される原則である。一方、「複合化(compounding)」は、既存のレベル内における能力が組み合わさる際(ミクロな発達)に発揮される原則である。

 

要するに、統合化(intercoordination)はある能力レベルから次のレベルに移行するという「垂直的な発達」に際して見られる現象であり、複合化(compounding)は同一能力レベル内における量的拡大という「水平的な発達」に際して見られる現象である。

 

次に、「焦点化(focusing)」と「代用化(substitution)」は、複合化よりも細かな発達プロセスにおいて適用される原則である。焦点化(focusing)は、あるタスクをこなすために必要となる能力を即座に選び抜くことを可能にする。一方、代用化(substitution)は、ある能力を一般化させて他のタスクに対して活用する、あるいは他の文脈内で活用する際に発揮される。

 

最後の変容原則である「差異化(differentiation)」は、ある能力がより細かな能力に細分化される際に発揮される。ある能力が分化し、それらの構成要素がそれぞれ高いレベルで発揮されるようになると、それらが再び統合化され、次のレベルに至るという発達の根本原理は馴染みがあるだろう。

 

その根本原理の出発点はまさに差異化なのである。つまり、差異化がなければ統合化もありえず、能力の発達は起こりえないということである。差異化、代用化、焦点化、複合化というミクロな発達が積み重なることによって最終的には統合化というマクロな発達が生み出されることになる。

 

フィッシャーも指摘しているが、これら5つの変容原則はおそらく完全なものではなく、さらなる実証研究によって洗練化される必要があると思う。洗練化が実現すれば、より正確な発達予測が可能になると見込まれる。

 

ここで追加として、能力の発達に不可欠な二つの主要因を見ていきたい。ある能力が新たなレベルに到達するためには、常に「有機体要因」と「環境要因」が不可欠となる。それら二つの要因について、今から簡単に見ていきたい。

 

まずは有機体要因に関して、それは二つに分けることができる。一つ目は、私たちは発達の対象となる能力をそもそも持っておかなければならないということである。これは言うまでもないかもしれないが、能力が次のレベルに到達するためには、基礎的な土台となる能力が存在しておかなければならないということだ。つまり、「無から有は生まれない」という言葉は能力の発達にも当てはまる。

 

二つ目は、それらの能力の発達に対して上記の変容原則が適用できなければならない。例えば、もし私たちがある能力を持っており、その能力がすでに最高レベルに達している場合、その能力に変容原則を適用することはできず、能力の発達はそれ以上起こらないのだ。

 

有機体要因と同様に、環境要因にも少なくとも二つの種類が存在する。一つ目は、ある能力が発達を遂げた場合、新しいレベルの能力が機能する環境が整っていなければならない。つまり、いくら高度な能力が獲得されたからといって、それが発揮できないような環境であれば、能力の発達は起こらないということである。

 

二つ目は、複数の能力が発揮されることが要求され、それらの能力が組み合わさって初めて状況に対応できるような環境が必要となる。要するに、既存の能力をあれこれ組み合わせながらでないと解決できないような課題や状況がなければ、より高度な能力が獲得されることはないということである。

 

能力の発達には、有機体要因と環境要因の双方が必要とされることをもう一度強調しておきたい。なぜなら、個人の発達を支援する際に、とかく個人にだけ焦点を当てがちであるが、発達が醸成される環境設定やタスク設定が重要であるということを忘れがちであるからだ。

 

有機体要因と環境要因のどちらか一方しか備わっていない場合、能力の発達は起こらないということを肝に銘じておきたい。

 

統合化(intercoordination)と複合化(compounding)という二つの変容原則は、どちらも複数の能力が結びつき、より複雑高度な能力が生み出されることに関係している。能力の発達プロセスに関する先行研究やピアジェ派の文献においても、複数の能力が結びついて一つの新しい質的に異なった能力になることが指摘されているように、統合化と複合化の考え方は能力の発達を理解する際に特に重要になる。

 

次回以降の記事では、今回紹介した5つの変容原則のそれぞれを詳しく見ていきたい。

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