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178. 道徳的知性発達論者としてのアダム・スミス

April 20, 2016

『国富論』よりも重要な書籍とみなされる、アダム・スミスの『道徳感情論』を大学時代に図書館で眺めたことはあったが、じっくり読もうと思ったことはこれまでなかった。

 

”The Theory of Moral Sentiments (1759)”を改めて読むと、スミスがいかに優れた「道徳的知性発達論者」であったかがわかる。スミスは、「調和ある社会を実現させる原動力は何であるか?」という問いをもとに、個人の心理と社会の関係を解明しようとして本書を執筆した。

 

とりわけ注目に値するのは、調和ある社会の実現に向けて、人間が個人の利己的な衝動を乗り越えて、「共感」を生み出していく道徳的知性を育んでいくプロセスを発見したことだろう。つまり、スミスは、ロバート・キーガンの発達モデルで言うところの、段階2から段階3への移行過程を明らかにしたということだ。

 

スミスの説明論理は、発達理論の説明論理とほぼ合致している。スミスの道徳的知性発達理論の出発点は、私たちは想像力を働かせて自分自身を他者の立場になって考え始める、ということにある。

 

他者がどのような気持ちなのか、他者がどのようなことを考えているのかを思考の対象にできるのは、発達理論の世界では「二人称的な視点取得能力(2nd person perspective-taking ability)」と呼ばれる。

 

そして、スミスは、他者の立場になって考えてみることによって「共感」が得られるとし、その思考プロセスを繰り返すことによって、最終的には目の前の他者と自分にも偏らない「公平な観察者(impartial spectator)」としての共感の境地に達すると述べている。

 

言い換えると、他者と交流する中で、他者の立場になって考えるという二人称的な視点取得能力を練磨した結果、自己と他者の両者を客体化させるという「三人称的な視点取得能力(3rd person perspective-taking ability)」が芽生え、より高度な共感を得ることにつながるということだ。

 

スミスは、デイヴィッド・ヒュームの “A Treatise of Human Nature(邦訳:『人間本性論』)”から多大な影響を受けたと言われているが、まさに、人間は本質的に歴史的な存在であり、他者との交流を通じて私たちは人間性を涵養し、その過程で身につけた「共感」を社会秩序の基礎に置く、というヒュームの哲学思想をスミスから汲み取ることができる。

 

さらに、個人的に興味深いと思ったのは、「私たちは、ある傾向の行為を他の行為よりも好ましいと思い、一方を正しいものとして認識し、他方を正しくないものとして認識してしまうのはどうしてであり、またどのようなメカニズムによるのか?」という問いをスミスが立ていることだ。

 

様々な説明論理が考えられるだろうが、発達理論の観点からすると、私たちは、自らの道徳的知性の発達段階を通じてある行為を目撃し、自分の知性段階の枠組みによってその行為を解釈するため、ある行為を正しいとみなしたり、間違いであるとみなしたりすると言える。

 

思うにも、ここでも「共感」という働きが起こっていることが伺える。つまり、ある道徳的知性段階にいる人が生み出す行為を正しいとみなす時、その行為を生み出す人物の道徳的知性に私たちは共感していると言えるのではないか。両者の道徳的知性段階が半ば無意識的に共鳴し合っているような現象だ。

 

ただし、注意が必要なのは、高度な道徳的知性を持つ人の行為が常に正しいものであるという保証はないし、単に表面上の行為に共感している状態も考えられるということだ。

 

こうしたスミスの問いを発達心理学のアプローチから探究していったのがローレンス・コールバーグである。スミスの200年後に、コールバーグは道徳的知性の発達プロセスに関して、より洗練された理論モデルを提唱することになったのだ。

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