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167. 多様な知性領域の差異化方法:ウィルバー&ガードナー&フィッシャーの比較


記事「165.「領域全般型」の測定手法の誕生:マイケル・コモンズの階層的複雑性理論」 の続き

それでは、LASを用いてどのように多様な知性領域を差異化していくかという点を見ていきましょう。ケン・ウィルバーは、多様な知性領域というものが「比較的独立して存在する」という主張をしています。

ウィルバーの主張では、多様な知性領域は各々の固有な問いに裏打ちされたものであると述べています。例えば、認知の領域であれば「私は何を認識しているか?」、道徳の領域であれば「私は何をすべきなのか?」という独自の問いです。

ある意味、ウィルバーはこうした問いによって多様な知性領域を差異化しているのです。概して、ウィルバーは多様な知性領域がいくつ存在するのかについて明確な言明を避けており、「知性領域は数十に渡る」という表現を好んで使用しています。

ウィルバーの知性ラインと同義なものとして、ハーバード大学教育大学院教授のハワード・ガードナーの「多重知性」が取り上げられます。ガードナーは、厳密な基準を用いながら八つの知性を定義しています。

ガードナーは私たちの知性がどのように働くのかということを解明しようとしており、潜在的な情報処理能力は私たちの生活や文化に価値を創出するために働くべきであると主張しています。ウィルバーの知性ラインと比較すると、ガードナーは認知のラインのみに焦点を当てていると言われています。

実際に、ガードナーは感情的な知性や道徳的な知性は存在しないと述べていますが、認知的な八つの知性は道徳的な判断や感情のコントロールなどを扱うと指摘しています。さらに、各々の知性は、道徳的・感情的に発揮されうるものであるとも指摘しています。

カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論のアプローチは、ガードナーの差異化の手法よりもウィルバーの方法に近いと言えます。スキル理論では、具体的なタスクや文脈に応じた数だけ知性領域が存在するという前提を置いています。

しかしながら、個別個別のタスクは「スキル」とみなされ、スキルの集積体や階層構造を持つスキルが存在することに注意が必要です。例えば、中絶について議論するときに発揮されるモラルの知性を取り上げてみても、認知などの他の知性領域が要求されます。

つまり、より一般的なスキルはより具体的なスキルを包摂するということがわかります。それゆえに、スキル分析をすれば、スキルの階層や集積体の存在が明らかになります。これはまさに、特定の認知活動を様々なスキルに細分化することを目指したアプローチだと言えます。

それゆえに、多様な知性領域を分析するために、各領域に関するタスク(設問)を与え、多様な認知スキルを差異化していきます。例えば、リーダーシップ能力に関する知性の測定を行う場合、リーダーシップに関わる様々なタスクとスキルを分類することから始めます。

より具体的に述べると、戦略を策定する際には、当然ながら戦略的な思考能力が要求され、戦略を実行に移す際には意思決定能力が要求されます。LASを活用することによって、これらのスキルが測定可能となるのです。要するに、LASを用いると、同一の物差しで異なるスキルを測定することが可能になります。

ウィルバーが提唱しているような、主要な問いに対応した一般的なサイコグラフに関心があれば、能力ラインごとに測定を行うことは可能です。もちろん、能力ラインを構成するスキルを実証研究によって精緻化させていくことは必要ですが、ウィルバーが “Integral Spirituality (2006)”の中で取り上げている多様な能力ラインを測定することは十分可能です。

ただし、認知のラインを例にとってみても、それはあまりにも漠然としているため、認知のラインを構成するどんなスキルを測定したいのかをあらかじめ明確にしておく必要があります。そのため、最初に取り掛からなければならないのは、「認知」という曖昧な定義をより明瞭なものにするために、どんな能力を測定したいのかを明らかにし、その能力が浮かび上がるタスク(設問)を設定することです。

ウィルバーの理論では、認知のラインは「私は何を認識しているのか?」という問いに対応するものであるとされており、この問いが妥当であるかは定性的なインタビューを行って確認する必要があるでしょう。要するに、どんな状況下における認知機能を測定したいのかを明確にする必要があります。

もちろん、多様な知性ラインを測定するために、適切なタスク(設問)を設定することは容易ではありません。しかし、すべての測定手法は何かしらのタスクを設定しているので、これはLASに限った問題ではありません。繰り返しになりますが、LASが独自性を発揮しているのは、多様な知性領域を一つの共通の物差しで測れるということなのです。

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