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156. 認知レベルの発達とOSの進化

以前の記事「121.ダイナミックスキル理論における「スキル」に関する誤解」で、カート・フィッシャーが提唱するダイナミック・スキル理論における「スキル」とは、世間一般で言われているプレゼンテーションスキルや交渉スキルといった表面的なスキルではなく、それら表面的なスキルを発動させる深層的な認知能力のことであると述べました。

そして、そうした深層的な認知能力は、コンピューターのOSのようなものであると指摘しました。私はコンピューターに関して門外漢なのですが、思い出せる範囲でいうと、例えば、WindowsのOSはこれまでWindows 10, 8, 7, Vista, XP, 2000, 98, 95とヴァージョンアップを図ってきました。

それらのヴァージョンを低い順に、数値にラベリングすると(OS version=Level)、95=5, 98=6, 2000=7, XP=8, Vista=9, 7=10, 8=11, 10=12 となります(フィッシャーのスキル理論では、レベル12を最大値として設定しているため、12から数字を下げていきました)。

単純に考えると、OSがヴァージョンアップされていくと、より高度なアプリケーションソフトを扱えるようになり、より高度なタスク処理ができるのではないでしょうか。これと同じことが、人間の深層的な認知能力の拡張にも当てはまります。

フィッシャーの理論では、人間の認知レベルを0から12でラベリングしており、まさに認知レベルが上がっていくにつれて、より高度な思考を行うことができます。つまり、認知レベルが高まると、より高度なタスク処理を行うことが可能になります。

しかし、人間の認知に関して興味深いのは、私たちはヴァージョン10のOSを獲得したからといって、常にそのバージョンを基盤としてアプリケーションソフトを動かしているわけではないのです。さらに、私たちは発動させるアプリケーションソフトに応じてOSのヴァージョンが異なるということにも注意が必要です。

最初の点についてまず説明すると、問題発見能力に関して深層的な認知レベル12を獲得した人も、上司に叱責されて感情が揺さぶられている時や二日酔いの後では、本来発揮可能な認知レベル12のOSを駆動させて問題発見能力というアプリケーションソフトを活用することはできません。

さらに、私たちは置かれている文脈やタスクが異なれば、異なるOSのヴァージョンを発揮するという性質上、企業内で高度なOSを携えて問題発見能力を発揮していた人が、家庭内の夫婦関係に潜む簡単な問題すら発見できず、破局に至ることは頻繁に起こり得ます。

巷に溢れるビジネス書は、問題発見能力を開発すれば、それがさもどんな文脈においても同レベルで発揮可能であるかのような錯覚を与えますが、認知的発達心理学の枠組みからいうとそれは正しくありません。人間の知性や認知能力は、もっと動的なものですし、より変動的なものなのです。

二つ目の点に関して、発動させるアプリケーションソフトごとにOSのバージョンが違うということも、人間の認知という動的なシステムを理解する上で大切です。例えば、普段は管理職として社内でリーダーシップスキルというアプリケーションソフトをヴァージョン10のレベルで駆動させていた人も、家に帰って赤ちゃんをなだめるというスキルはヴァージョン6のレベルしか発揮できないかもしれないということです。

要約すると、認知レベルが成長・発達するというのは、紛れもなくOSの進化のことを指しますが、OSが進化したらかといって、常にそのヴァージョンのレベルでOSを動かしているわけではないということが大切になります。

そして、活用するアプリケーションソフトの根幹には、固有のヴァージョンのOSが搭載されているという点も忘れてはなりません。これらの点を考慮すると、人間の認知というシステムは、実に複雑でダイナミックなものであるということを掴んでいただけるのではないでしょうか。

【追記:ダイナミック・システム理論活用による認知研究】

現在、私は人間の認知能力の複雑性を探求するために、応用数学の一分野ダイナミック・システム理論を学習しています。この理論を使えば、深層的な認知能力というOSが一秒単位で刻一刻とヴァージョンを変化させながら動いている様子が見て取れます。

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