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141. ラスキーが提唱する測定手法に対する批判的意見


ラスキー先生の下で受けたトレーニングの中で最も時間を要したのが弁証法思考に関する学習です。トレーニングの中で、ソクラテス、アリストテレス、ヘーゲル、サルトル、ロイ・バスカー、ハンナ・アレントなどの哲学思想を学ぶことが要求されており、さらにマイケル・バサチーズ、マイケル・コモンズ、エリオット・ジャックス、カレン・キッチナーなどの意識段階モデルを理解することも要求されていました。

このように様々な哲学思想や意識段階モデルを学習することによって、私自身の探求の幅が広がったのは間違いありません。実際に、ラスキーから授かったトレーニングのおかげで、これまで自分が活用していなかった思考形態を認識することができたり、新たな思考形態の獲得につながったことは確かでしょう。

また、人間の思考形態の発達の奥深さに触れ、この探求は完結することのない終わりなき旅路のような畏怖の念に打たれたのもラスキーのトレーニングのおかげです。しかし、どんなに精緻な理論モデルも完全ではないのと同様に、ラスキーのモデルも幾つかの課題を残しています。

ラスキーはマイケル・バサチーズの思考形態分類を発展させ、合計で28個の高度な思考様式(弁証法思考)を提唱しています。ラスキーは優れた測定マニュアルを構築していますが、実際に測定マニュアルに基づいて弁証法思考の分析をしてみると、思考の深さを見ていくというよりも思考様式の分類を行っている感覚に陥ります。

つまり、本来は思考の深さ(意識の高度)を分析していくはずの測定手法が、どうも思考の種類を見分けることに留まっているのではないかと思うようになりました。もちろん、思考形態を分類した後に、定量化し、最終的には「認知的発達スコア」というものが算出されますが、そこに思考の深さが適切に反映されているかというとそうでもないのではないかという疑問が出てきたのを覚えています。

認知的発達スコアの算出過程において、どれだけ多くの思考形態を活用しているかという点と各思考形態をどれだけ深く活用しているかという点が大切になります。しかし、ラスキーの測定手法の問題点は、思考形態を数多く活用していれば、それだけスコアが高く算出されてしまうことにあります。多くの思考形態を有することと深く考えることは同じではないと思うのです。

もちろん、多様な思考形態を活用できることは思考の柔軟性を示すことになると思いますが、単純に思考形態の数がスコアに影響を与えるのは問題があるでしょう。また、各思考形態をどれだけ深く活用できているかの分析も、1-3段階で評価するのですが、明確な評価基準というものはなく、分析が恣意的であり、測定者間の信頼性(inter-rater reliability)に関して課題を残しています。

インテグラル理論の観点から述べると、ラスキーが構築した測定手法は「レベル」と「タイプ」の両方が包摂されたユニークな測定システムです。しかし、上記の2点に関しては課題の残る測定手法だと考えています。

【追記:ラスキーの書籍について】

確かにラスキーの測定手法には乗り越えるべき明確な課題が存在していますが、彼が提唱する意識の発達モデルや人間の思考に対する論考は示唆に富みます。700ページに及ぶ大著 "Measuring Hidden Dimensions of Human Systems” は、彼の叡智が織り込まれた労作だと思います。

こちらの書籍は、以前私が翻訳をした “Measuring Hidden Dimensions”の第二弾であり、第二弾の書籍についてもラスキーから翻訳を依頼されたのですが、内容が難解であることと分量の多さのため、翻訳を断っています。

そのため、ラスキーの功績を日本語で触れる機会がほとんどないと思われるので、少しずつでもラスキーの発達モデルや発達思想を紹介できたらと思います。

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