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134. ダイナミック・スキル理論誕生史:デカルト的認識論を超えて


それでは前回の記事で紹介した「デカルト的認識論の呪縛」を一歩先に進めて、今回の記事は、デカルト的認識論が支配的であった当時の発達思想(メタファー)を概説するとともに、デカルト的認識論を乗り越えたダイナミック・スキル理論が提唱した新たな発達思想(メタファー)を紹介します。

ダイナミック・スキル理論誕生前の発達科学の世界において、デカルト的認識論から派生して、 「人間の心は階段状に発達していく」という説明論理が支配的でした。言語学者のジョージ・レイコフ(George Lakoff)が指摘しているように(Lakoff & Johnson, 1980)、私たちの思考や行動はメタファーによって強く影響を受けています。それと同様に、科学的な概念や理論というのも、特定のメタファーによる制約を受けます。

つまり、心の発達を静的なものと捉えてしまう既存の発達理論の大多数は、欧米心理学の世界に広く浸透した「階段」あるいは「梯子」のメタファーによって強く影響を受けていると言えるのです。そうしたメタファーは、発達を一つの構造から次の構造へ移行する直線的なプロセスであるかのように、われわれの思考や発想を誘導してしまうのです。

このような発想の下では、人間が持つ動的な活動を適切に理解することが困難となってしまいます。つまり、発達プロセスを階段状のものとして捉えてしまうメタファーでは、私たちのパフォーマンスに内在する変動性を適切に説明することができないのです。

そうした既存の発達研究のパラダイムに対抗して、カート・フィッシャーは、発達が持つ変動性と多様性を考慮した「発達の網の目構造」(developmental web)という新たなメタファーを提唱しています。「発達の網の目構造」とは、様々な発達領域がお互いに関係し合い、複雑なネットワークを構成しながら発達していくという発想です。

このメタファーで提唱されているのは、発達のプロセスに決められた順序や形というものは存在せず、私たちが置かれている文脈や具体的な活動の種類によって、網の目(糸)が複雑・多様に伸びていくということです。例えば、何か新しい技術や知識を習得しようとする際に、最初はその網の目構造を構成する糸は非常に脆弱です。

しかし、修練を積むにつれて、あるいは外部からの支援を受けるに伴い、紡ぎだされた糸が徐々に強固なものとなっていきます。仮に糸が途切れてしまったとしても、私たちは再び実践を開始することによって、その糸を新たに紡ぎだすことができます。

そのようにして私たちは、社会的な文脈の中で他者や環境と相互に影響を与えながら、より複雑なスキルのネットワークを構築していくのです。

カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論では、発達をこのような網の目構造とみなします。多様な文脈の中で発揮される一つ一つのスキルは他のスキルと絡み合う形で発達し、感情の状態や周囲の状況、そして外部からの支援の変化によって、発揮されるレベルが動的に変化するものとして捉えられているのです。

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