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128. 心理学界のアインシュタイン「カート・レヴィン」について


発達科学の領域に応用数学の一分野ダイナミック・システム理論が積極的に活用されていることを背景に、継続的にダイナミック・システム理論に関する専門書や論文に目を通しています。

こうした文献調査を続けているうちに、心理学の領域にダイナミック・システム的な発想を取り入れた人物はカート・レヴィンが最初なのではないかと思うようになり、彼の功績を少しずつ見直すということをしています。レヴィンの論文や書籍を読めば読むほど、彼は心理学におけるアインシュタインのような人物ではないかと思っています。

簡単にカート・レヴィン(1890-1947)がどんな人物かを紹介すると、レヴィンはポーランド生まれ、その後アメリカ人に帰化し、社会心理学・組織心理学・応用心理学に貢献をした学者です。特に「社会心理学の創設者」と呼ばれていることからも、集団心理や集団力学(グループダイナミクス)に対するレヴィンの洞察は深いものがあります。さらに、MITの教授時代に初めて「アクションリサーチ」という言葉を提唱し、当該分野を開拓したことでも知られています。

レヴィンの学術的な経歴をもう少し説明すると、彼はフライバーグ大学で最初医学を学習しており、その後ミュンヘン大学に移って生物学を学習していました。さらに、行動心理学を学びつつ徐々にゲシュタルト心理学へと傾倒していきました。ベルリン大学で哲学と心理学の教鞭を振るうとともに、研究者としてタヴィストック研究所に参画していました。

レヴィンは当時盛んに議論されていた「氏か育ちか」という論争に対して、遺伝的要因と環境的要因の双方が人間形成に影響を与えるということを彼の有名な方程式B = ƒ(P, E)を用いて提唱しています。

この方程式はレヴィンが提唱した理論の鍵を握るので今後詳しく解説をしたいと思いますが、この方程式の本質を簡単に述べると、ある人間の行動(Behavior)はその人(Person)と取り巻く環境(Environment)の関数であるということを意味しています。

この方程式は特に社会心理学の文脈でよく知られており、「Principles of Topological Psychology(1936)」という難解ですが洞察溢れる専門書に詳しい説明がなされています(5年前に購入した時は、何が書かれているのかよく分からなかったのですが、大切なことを述べているに違いないと直感的に気付きました)。

レヴィン以前の心理学において人間の行動を分析する際に過去の行動に焦点が当たっていたのですが、レヴィンの方程式の功績を一言で述べると、人間行動を理解する際にその瞬間にその人が置かれている状況の重要性に着目したことです。

この点はカート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論や応用数学のダイナミック・システム理論にもやはり影響を与えていると思います。瞬間瞬間に変動する文脈を考慮して包括的に人間行動を理解しようという試みをレヴィンは行っていたのだと思います。

【追記:「最先端」と言われる最先端ではないもの】

発達科学というものが欧米を中心として英語という言語空間の中で展開されている分野であるため、残念ながら日本に入ってくる発達科学に関する情報量は雀の涙ほどでしかありません。さらに、日本で最先端の理論として有り難く崇められるような理論も20年から30年の時差を持って私たちに届けられます。

感覚的なイメージとしては、砂浜に漂流してきた年代物の古びた空き缶を拾っているような印象でしょうか。漂流してくる空き缶は珍しいものではあるかもしれませんが、決して時代と足並みを揃えて生きているようなものではありません。

発達科学という分野において日進月歩で生み出される最先端情報というのは、それが最先端であるがゆえに時に荒々しく、検証の余地が多分に残っている可能性もあります。ただし、情報というのは「生もの」あるいは「生き物」であるという性質上、最先端情報は生命力や躍動感を放っているのは間違い無いでしょう。

それでは、発達科学に関する最先端情報を摂取するためにはどうしたらいいかというと、とりあえず日本語空間から脱却して、英語空間内で展開されている情報を英語という言語を媒介にして鷲掴みにするというのが得策だと思います。

本音を述べると、英語で出版されている書籍や論文にアクセスできたとしてもそれらは最先端と呼べる代物ではありません。最先端の生命力ある情報たちは、往々にして科学者同士の対話や共同研究の中に眠っています。

そう考えると、現在私は科学コミュニティーから一歩遠ざかったところで実務作業に専念しているため、真の意味で発達科学の躍動感を感じられていないのかもしれません。

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