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103. 発達測定者の頭の中:分析の対象構造


テオ・ドーソンの下で発達測定手法を学んでいる際に、彼女の測定モデルが大きく分けて三つの階層構造を視野に入れていることが分かりました。三つの階層構造とは、(1)発話内容階層、(2)領域特定階層、(3)コア階層と呼ばれるものです。

イメージとしては、最初に挙げた階層ほど表層的な意味構造であり、最後のコア階層が一番深層部分に存在する意味構造です。ドーソンのモデルの特異性は、コア階層に存在する概念の抽象階層と論理構造の複雑性を分析することにありますが、実際の測定プロセスでは、上記に挙げた三つの階層構造を行き来しながら分析が進んでいきます。

一般的に、領域特定型の発達測定モデルでは、領域固有の階層構造(例えば、社会的感情的発達領域)において、どのように発話内容が構築されているのかを見ていきます。それに対して、ドーソンの測定モデルでは、領域や文脈に固有の構造に注意しながら、発話内容を精査した上で、コア階層に表出する思考の複雑度合いを測定していきます。

例えば、次のようなインタビュー事例があった場合、スコアリングは下記のようなプロセスでおこなわれます。

事例

インタビューアー:「良い教育を受けることなしに、良い人生を送ることができるでしょうか?」

Aさん:「ええ、恐らくできると思いますよ。良い教育を受けたら、より豊かになるでしょう。もちろん、一概には言えませんが。」

インタビューアー:「良い教育を受けたら、どうして豊かになると思いますか?」

Aさん:「良い教育を受けたら、より多くの物事に対して私たちの思考が開かれるからです。」

分析プロセス

この事例は、良い人生における教育の役割をそれほど明確に語っていないので、分析作業はなかなか難しいですが、もし仮にAさんが述べている「豊かさ」という言葉が、経済的な豊かさを単に示しているだけならば、ドーソンおよびフィッシャーが提唱するレベル6から8で見られる「表象段階」の特徴を表しています。

しかし、Aさんは、ここで単に経済的な豊かさについて語っているのではなく、「思考の拡大」という抽象的な概念と結びつけて「豊かさ」という言葉を用いています。さらに、豊かな人生と思考の拡大という二つの抽象的な概念を結びつける形で意味を構築しており、「もし良い教育を受けたら、思考がより拡張し、その結果として豊かな人生を送れる」という論理構造になっています。

つまり、ここでAさんは、二つの抽象的な概念を結びつけることによって豊かな人生という意味を生み出しているため、少なくともレベル10の「抽象配置段階」の階層構造で意味を構築しています。ここでさらに高次の階層構造の可能性を考慮すると、もしかしたら「豊かさ」や「思考の拡大」という言葉を一段高い階層構造に基づいて生み出しているかもしれません。

例えば、他者や社会との関係性、取り巻く文化やシステムとの関係性に基づいて、「豊かさ」や「思考の拡大」を捉えているかもしれません。しかし、発話事例を見る限り、視点が個人に限定されており、抽象配置段階よりも高次の可能性はほとんどないので、結論として、レベル10「抽象配置段階」とスコアリングすることができます。

上記の分析プロセスが示すように、測定者は三つの階層構造を行き来する形で分析をおこないます。まず最初に、発話の意味を理解することに努め、その後、領域固有の階層に踏み込んで(個人の視点のみならず、他者や社会の視点から、言葉の意味を捉え直す)、より高次の可能性がないかを探求しています。

さらに、抽象的な概念の特定とその意味を確認した上で、論理構造を踏まえ、最終的なスコアリングをおこなっています。このように、発話者が一つの言葉をどのように用いているのかを正確に理解しなければ、スコアリングは不可能になってしまいます。

つまり、測定者は、複数の視点(複数の階層構造)から言葉の意味を正確に理解する姿勢が強く求められるのです。

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