今回焦点を当てる段階は、コモンズのモデルで言うレベル11(システム思考段階)です。このレベルは、ロバート・キーガンの発達モデルでは段階4に対応し、自己著述段階に位置します。最初に、レベル11の行動論理を簡単に紹介したいと思います。
・問題の様々な側面に着目し、多様な視点を取ることができ、それらを統合し始める。
・問題に潜む条件を考慮し、仮説を構築することができる。
・状況を適切に理解するために、より多くの情報を要求することがある。
・異なる解決策を統合することは困難であると理解しながら、解決策の統合を試みる。
・様々な選択肢は、複雑かつ変化する状況の産物であると認識している。
・それらの選択肢は、状況に合わせて頻繁に評価・再評価される。
以上が、レベル11の一般的な行動論理であり、それでは実際の事例をいくつか見ていきたいと思います。
事例1:レベル11
A:「もし彼女の子供たちが彼女に対して感謝の気持ちを持っていないのなら、あるいは子供たちが、彼女が自分の人生を犠牲にして自分たちに尽くしてくれていることに感謝していないのなら、彼女は、家庭に専心することはそれほど価値のないことだったと思うかもしれません。」
分析
Aさんは、問題に存在する多様な条件を考慮することができています。つまり、複数の仮説的な条件を設定し、その条件下において、問題がどのように変化するかを捉えています。具体的には、「もし彼女の子供たちが彼女に対して感謝の気持ちを持っていないのなら」「もし子供たちが、彼女が自分の人生を犠牲にして自分たちに尽くしてくれていることに感謝していないのなら」という二つの原因が、「彼女は、家庭に専心することはそれほど価値のないことだったと思うかもしれません」という考えを生むという因果関係を見出しています。
事例2:レベル11、性別(女性)、年齢(41歳)
インタビュアー:「戦争を経験して、人生観がどのように変化したのですか?それは、死に対する恐れからでしょうか?」
B:「ええ、死に対する恐れが私の人生観を変えたと思います。そうした戦争下において、理想を抱くことは困難です。そうした状況下においては、一日を精一杯生きなければならず、その先一週間の計画を立てるということは難しいです。水も無く、食料も無いような状況下においては・・・」
分析
Bさんは、人生観を変えた理由の一つとして、死に対する恐れを挙げています。Bさんの人生観は、死に直面した過酷な状況下において変化したと読み取れます。つまり、Bさんは、戦争前の自分の人生観を一つのシステムと捉え、戦争後、以前の人生観(システム)とは全く異なった人生観(システム)を持つようになったと述べています。
さらに、Bさんは、戦争という極限状況において、理想を持つことはできず、自ら人生観を選択することはできないと指摘し、戦争が彼女に対して新たな人生観を持つように仕向けたと述べています。ここからも、Bさんは、明示的ではありませんが、戦争前の人生観や状況と戦争後の人生観や状況を比較することができています。
しかし、Bさんは、新しい人生観(システム)について主に語っており、過去の人生観について明示的に言及していません。すなわち、二つのシステムを完全に統合することができていない点において、レベル12への移行期にあると言えます。