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69. 教育雑感:発達の全貌を見据えた言語教育


日々、日英バイリンガルの子供たちの教育に携わっていると、そこで提供されている学習プログラムの多くは、発達の全貌を見据えた上で構築されているものでは決してないという印象を持たざるを得ません。

人間の発達という大きな視点を基にした教育設計の欠落という問題は、広く教育界全般に渡って浸透しているのではないでしょうか。確かに世の中が複雑になるにつれて、あるいは世界の情報量が増大するにつれて、私たちは複雑な世界に麻痺しないだけの思考耐性や情報抽出・情報咀嚼力が求められています。

しかし、膨大な量の情報を、しかも直接的経験とは遊離した抽象的な言葉で子供たちに享受しようとすることは、心の発達の観点から言うと、極めて短絡的な教育手法、それどころか、子供の発達に害悪ですらあると言えます。

岡本夏木氏が『子どもとことば』の中で指摘しているように、「発達の中の教育」という発想は、現代の教育方法に一石を投じることになるでしょうし、生涯に渡る心の発達という大きな時間軸の基に、教育政策や教育プログラムを策定していく必要が求められているのです。

特に心の発達と言語の習得は切っても切れない関係にあり、言語教育は極めて重要な役割を担います。もし、言葉を単なる抽象的な記号として学んだり、言葉が持つ意味の暗記だけに時間を費やされることがあるならば、そうした試みは直接的な経験や言語の身体性を蔑ろにしているがゆえに、早晩失敗に終わってしまうでしょう。

ここで大切となるのは、国語教育にせよ、英語教育にせよ、言語教育を個人の発達史全体を見据えておこなうことです。発達史全体を考慮に入れない教育は効果がないばかりか、個人の発達を阻害してしまう要因となる可能性が高いと言えます。

発達理論を学び続けて感じるのは、発達という大きな視点に基づいた教育の再編成・再構築の重要性および緊急性です。こうした教育の再編成・再構築という試みは、一日にして成し遂げられるものではないので、まずは個人として、日々接する子供たちの発達史を展望しながら教育にあたるという姿勢を持ち続けようと思わされる毎日です。 質問・コメント・記事の共有をご自由にしていただければ幸いです。

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